室長レター― 西日暮里校

『授業日報という教師からの手紙』

昨年の5月、公立中2のNさんが、お母様と一緒に入塾相談に来てくれました。Nさんの成績は、中1の1学期がトップクラス。しかし、それをピークに成績は下がり続けて、ついに平均点を下回り始めていました。「昔は素直で良い子だったのに…。テストも80点以上ばっかりだったのに…。先週も私が、学校に呼び出されてしまって…。」と、お母様の嘆きは続きました。

実はNさん、他の個別指導塾に通っていました。参考までに、その塾での授業記録書を見せていただくと、私自身もうんざりするくらいの言葉が羅列されていました。それは、Nさんの授業態度を注意する言葉が、来る日も来る日も書き続けられていたのです。

現実問題としてNさんの中学校では、授業中にトイレに行くふりをして立ち歩き、そのまま教室に戻ってこない生徒がいるような状況で、残念ながらNさんもその一人でした。そして、通っていた個別指導塾でも同様に立ち歩いていたようで、塾の講師にも放置されていました。

稲門学舎にも、90分の授業内容を記録する『授業日報』があります。日報は授業内容だけでなく、授業の理解度・宿題の指示・小テストの結果・持ち物・次回の予定・教師の所感等、細かく記載できるようになっています。私は、Nさんへの『授業日報』で、今までとは違う言葉を投げかけてあげたいと思いました。

Nさんは、初めての授業の日に、少しだけ早めに来てくれました。私は『授業日報』に「今日は5分前に教室に来てくれましたね。スバラシイ!ありがとう!…」と書き込み始めました。

授業終了後、私から『授業日報』を受け取ったNさんは、しばらく、きょとんとしていましたが、その場に立ったまま『授業日報』を読み始めました。それもそのはず、私の授業日報は、余白も含めて文字で埋め尽くされていたのです。まるで、手紙のように…。最後の特記事項欄には「とっても真剣に取り組んでくれました。本当にありがとう。次回も一緒に頑張ろう。」と締めくくりました。Nさんは2~3分、受付に立ったまま『授業日報』を読んでいましたが、空いている席をさがして、また読み直しているようでした。

私との授業で、Nさんがフラフラ立ち歩くことはありませんでした。そして、2ヶ月後。Nさんは、中学校の授業中に立ち歩いたり、出て行ったりすることは無くなりました。

中学2年生の夏休み。その過ごし方に大きな差が出るこの時。私は思い切ってNさんに、夏休みの学習目標を、かなり高めに設定しました。Nさんは「頑張る」とも、「頑張らない」とも何も言いませんでしたが、夏期講習は、英語と数学を中心に18日間休みなく通ってくれました。そして、秋の中間テストで、5教科平均80点を超えました。

「先生!授業日報は、ちゃんとファイルに綴じてるよ。」と、Nさんが自慢気に見せてくれるそのファイルの表紙には“トーモンXファイル”と書かれていました。何がX(エックス)なのか、極秘ファイルでもあるまいしと、私は心の中でほほ笑みながら、『授業日報』を大切にしてくれていることに感謝しました。

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