室長レター― 王子校

『父の背中』

今年の夏は例年より涼しく、雨の多い夏でした。皆様どのように過ごしましたでしょうか。

私は休みの間、奥さんと旅行に行った以外は家で本を読んで過ごしました。読書は学生時代からの趣味なのですが、社会人になり純粋に趣味で読む本と仕事に関係するので読んでおきたい本の比重が変わったことを感じます。とはいえ、本を読むこと自体が好きなので趣味と仕事が混同しているとも感じます。そして、私以上に趣味と仕事を両立しているのが父でした。

 

私が子供のころは、大人は遊んでばかりだなという印象を持っていました。というのも父が多趣味な人で、夏は山へ釣りや天体観測、冬はスキーと休みの日もなかなか家に居つかなかったためです。目いっぱい遊んでいる、大人は自由でうらやましいなと子供の眼には映ったものでした。また、父の書斎は本であふれかえっているのですが、「いつ読んでいるんだろう」と本を読む時間はいつあるのだろうかと不思議に思っていました。後から知ったことですが、父は本業(温泉旅館の経営)の傍ら、組合の代表として市や県と地元の公共事業に関する折衝しており、観光資源としての自然保護に努めていました。書斎にあった本の多くはその資料だったのです。野山に出かけるのも地元の魅力を常にその目で確かめておきたかったのでしょう。

 

そんな父に一度だけ夏休みの自由研究を手伝ってもらったことがあります。

 

小学生のころの私は自由研究が大の苦手でした。植物採集などといった定番物を「そんなものはつまらない」と嫌がるのに、オリジナルをゼロから作り出すような能力も、もちろん持ち合わせてはいませんでした。

「何をすればいいかわからない」

毎年自由研究のことになると頭が真っ白になりました。

 

手伝ってもらうことになったきっかけは、食事中に私が「食卓塩」といわゆる「あら塩」(にがり成分を含んだ塩)の成分表記が違うことに気づき、それを父に質問したことでした。皆さんは食卓塩の成分表を見たことはありますか? 瓶の裏にはこんな表記があるはずです。

 

「食卓塩」成分:塩化ナトリウム99%以上、原料:天日塩、塩化マグネシウム

「あら塩」成分:ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム

 

「うちの温泉も塩分を含んでいるよ」と、後日父から小さな鍋を渡されて、源泉をくみ取って鍋を火にかけて煮詰めること数十分、すると少し茶色く焦げた物質がなべ底にこびりついていました。なめてみるとしょっぱい。温泉のお湯は海水ほど塩気が際立つわけではないので、それまで意識していなかったのですが、天然の塩がこんな身近なところからもとれるのだと初めて知ったのです。

 

そして、研究といっても大それたものである必要はなく、身の回りのわずかな差異にきっかけが転がっていることも初めて知りました。

 

いくつかサンプルをとった後、それを保存する透明なプラスチックケースから、導入⇒仮説⇒分析⇒結論と研究のまとめ方まで、父が全部手ほどきしてくれました。初めて手伝ってもらったこともあり、一生心に残る夏の思い出になりました。

 

何事も自分一人でやり方を身に付けることは難しいです。お手本があればその習得は格段に速くなるでしょう。その「お手本」をどのように示すか、今私は仕事として毎日試行錯誤しています。願わくば、あの日父が示したお手本のように、私も誰かの心に残る仕事をしたい。夏の終わりが来る度、自由研究の思い出とともに決意を新たにするのです。

 

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